横林大々的

趣味、ときどき宣伝。

短編小説『私の映画、彼の映画。』

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「なんで、こういう感じのやつを観ようと思ったん?」

「こういう感じのやつを観たい気持ちやったからやけど」

 

「はりきって、シネ・リーブル梅田とか来るの、ヤバいわ」

「瓶のジンジャーエール飲み干しながら、なんやねん」

 

「タイトル、『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』やで」

「抜群やんけ」

 

「河内の汚い言葉を放ちながら、イギリス映画二度と語らんといて」

「おいおい、サブカルくずれ女、お前はメンヘラのコンビニ『ヴィレッジヴァンガード』さんに、お買い物へ行け」

 

「短小」

「それ、反則やろ。サッカーでボール持ったままゴールまで走っていくみたいな、あれやからな」

 

TSUTAYAでよかったってー」

「……ちょっとまって、オレ、どうなん? マジで短小なん?」

 

 



 一番好きな映画がクレヨンしんちゃんのオトナ帝国。

 一番好きなマンガはONE PIECE

 彼と私の暮らす部屋には交わらないものが2種類で別れている。

 

 けれど、どちらも散財に抵抗がないから、無秩序なカオスが日々と共に形成され続ける。



「よークレヨンしんちゃん一番好きって言って趣味に映画鑑賞とか言えるよな」

「それ、マジでそっくりそのまま返すパターンやわ」

 

「チンコ丸出しなん、ありえへんやん」

「おまえの、あの女の子がいじめられて坊主になる映画のやつの方が、ありえへんから」

 

「そちら様が『リリィ・シュシュのすべて』のことを、今言ってるんやったら今夜のメシは無しです」

「ええ、あれだけの豊潤な材料を購入してー? バーニャカウダーもー?」

 

「あの繊細な市原隼人が消えたんは、あんたが今、リリィシュシュを馬鹿にしたからや」

「そんなタイムトラベラーな展開ある? ドラえもんもびっくりのタイムパトロールやんけ」

 

「てれててっててー♪ 信長書店のレシートが入ったDVDー!」

「おま、ちょ、それ、どこで?」

 

「ふん!」

「割んなや! 半分やん! 二分の一やん! 神様はなんも禁止なんかしてないやん!!」




 好きなもの。

 好きなこと。

 こんなにバラバラで。

 お互いにお互いの、そういう部分。

 けなし合いがら、生きている。

 

 我慢してる?

 折り合いをつけてる?




「2、やろ」

「1やって」

 

「いや、2。絶対2」

「この世に絶対って言葉はないけど、これは1の方が『学校の怪談』最高やから」

 

「そういうとこやで。そういうとこのセンス」

「お前のリトマスでセンス測んなや」

 

「2の泥棒と笛少年のラストシーンを見て震えんかった?」

「はにわ光った方がおもろいやん」

 

前田亜季のかわいさの切り取り具合エグない? フィルムに残った少女時代の残滓感、エグない?」

「はにわ光った方がおもろいやん」

 

「一言もしゃべりたくない」

「腕枕しながら話す言葉とは思われへんな」

 

「腕枕の強がり見るたびに、男ってアホやなって思う」

「なんなん、お前脳みそと口直接つながってるん? 思ったこと全部いうてまうバグなん?」

 

「おらおらおら」

「腕枕状態で、ヘドバンすんなや。男の腕力、行使するぞ」




 身長差。

 彼はバスケ部。

 私は吹奏楽部中退。

 

 私が見上げて。

 彼が見下げる。

 

 ベッドでは、足先の冷えも膝の間で温める。

 ロリコンの冷やかしには私が怒鳴り返す。




「こうやってさー」

「うん」

 

「買い物、出かけるときにさー」

「うん」

 

「目当てのもんあってさー」

「うん」

 

「片方、バリはしゃいでさー」

「うん」

 

「片方真顔モードの時あるやん」

「あるなあ」

 

「あの時、何思ってこっち見てるん?」

「あー、好きなんやなあ、って」

 

「へー、わたし、なんでこんなんに心惹かれてるねんって、思ってるで」

「おい」




 私の映画。

 彼の映画。

 

 おんなじだったら、すごいんだろうな。

 

 けれど、歩幅を合わせたいから。

 一つの傘を二人で分ける。




「絶対いや」

「しんちゃん、みようやあ」

 

「ホンマにみたくない」

「だってちゃんと見たことないやろ?」

 

「見るまでもない」

「じゃあ、一生しんちゃんの悪口なしな」

 

「こんなん暇つぶしにもならへんやん。まだ窓の外の雨のしずく見てた方がましやわ」

「おまえ、それ、学生が授業中暇すぎる時にやるやつやで」

 

「あとで、はーって息吹きかけて、曇ったガラスに『すき』って書くねん」

「なんなん? お前が生きてる世界って『HoneyWorks』の歌詞の世界観なん?」




 一番好きな映画がリリィ・シュシュのすべて。

 一番好きなバンドはcero

 私と彼の暮らす部屋には交わらないものが2種類で別れていて。

 

 互いの境界線は好きの散財によってはみ出て、侵されて、日々の暮らしの中で、とうとう、いざこざを起こす。




「……」

「傘」

 

「……」

「風邪、引くで」

 

「……」

「待てって」

 

「いやや」

「待てって」

 

「いやや」

「なあ」

 

「ほっといて」

「いやや」

 

「ほっといて」

「むりや」

 

「やめて」

「いわなアカンから」

 

「……」

「その、わざとじゃないけど」

 

「……」

「大事なもん、捨ててもうて、ごめん」

 

「……」

「ほんまにごめん」

 

「……雨」

「……」

 

「濡れるで」

「びしょびしょのやつに言われたない」

 

「何回払いで、賠償するんですか?」

「一括で」

 

「……」

「昼飯はマクドの日々やわ」

 

「うん」

「あと、それと、もう一つ?」

 

「なに?」

ceroの新譜が出るって」

 

「じゃあ、それも奢ってもらうおーかな」

「俺、しばらくマクドで暮らすわ」




 好きじゃないものは好きになれない。

 それと、これとは話が別で。

 

 嘘をついても、いつかはばれる。

 心の許容が直ぐに溢れて。

 

 身長差は埋まらない。

 どれだけ頑張っても。




「最初のこと、覚えてる?」

「忘れるわけないやんけ」

 

「映画館」

「しんちゃんの映画な」

 

「めっちゃ夜の時間で」

「俺のとなりに、お前来てんな」

 

「一番興味のない映画に入ろうと思ってん」

「お前、雨でびしょびしょやったやん」

 

「エグい振られ方した後やってん」

「……え、そうなん?」

 

「それで、どうにでもなれーって」

「お前、病んだら雨に濡れる癖あるんか」

 

「そしたら、隣でさ」

「うん」

 

「めっちゃ笑うねん、あんた」

「楽しみにしてたやつやからな」

 

「内容はいってけーへんけど、だんだんそっちの笑い声に腹立ってきて」

「上演後、話しかけてきたもんな」

 

「『なんで、そんな笑えるんですかー』って」

「あれ、振られたあとの話やったんや」

 

「その人とは、無理してた」

「あんま元カレの話聞きたないけど」

 

「向こうの趣味に無理矢理合わせたりとか」

「へー」

 

「それが、アカンかったんやろーなって」

「ふーん」

 

「だから」

「うん」

 

「私は、リリィシュシュのすべて、好き」

「そうやな」




 私の映画。

 彼の映画。

 

 おんなじだったら、すごいんだろうな。

 

 だけど、二人は笑い合えるから。

 一つの傘を二人で分ける。

 



「こうやってさー」

「うん」

 

「買い物、出かけるときにさー」

「うん」

 

「目当てのもんあってさー」

「うん」

 

「片方、バリはしゃいでさー」

「うん」

 

「片方真顔モードの時あるやん」

「あるなあ」

 

「あの時、何思ってこっち見てるん?」

「あー、好きなんやなあ、って」

 

「へー、わたし、なんでこんなんに心惹かれてるねんって、思ってるで」

「おい」

 

「クソださいもん好きやなーって」

「あ、好きってそういうのちゃうで」

 

「……え?」

「お前の事」

 

「……」

「好きなもん見てるときのお前、めっちゃ笑ってるから」

 

「……」

「俺、この人んこと、ほんまに好きなんやなーって」

 

「……ちっ」

「なんやねん、舌打ちって。いたっ、なんやねん、腹パンって!」

 

「……」

「……てれてんか? お前、あれか、てれてんか?」

 

「……」

「なあなあ、なあなあ」

 

「……」

「ちょっ!チンコパンチはなしやろ!アカン!マジでシャレにならへん!!」




 私の映画。

 彼の映画。

 

 おんなじだったら、すごいんだろうな。

 

 けれど、歩幅を合わせたいから。

 



「……これ」

「……」

 

「今日は、これ見よ」

「すぐ準備するわ」

 

「ほんまに、おもろいんやろな、クレヨンしんちゃん




 君の映画を二人で分ける。